「吾輩は猫である」 、「坊ちゃん」 、「草枕」 、「三四郎」 、「こころ」 、「門」 ・・・。
どれも大好きですが、何度も読み返してしまうのは、やはり中学2年のときに読んだ「坊ちゃん」です。当然繰り返し読めば結末も分かります。ですが、この文章の綺麗さと主人の心の強さにとても魅かれるのです。
主人公は一人称の「おれ」だけ。名前はわかりません。このあたりのぶっきらぼうな表現が好きなところでもあります。そんな主人公は、冒頭の「親譲りの無鉄砲で子供の頃から損ばかりしている。」から始まり、家族からも疎んじられていると表現されています。それでも、下女の清だけは坊ちゃんの曲がったことが大嫌いな性格を気に入り、可愛がってくれ、場面場面で清の思い出が描かれ、主人公の優しい性格がうかがい知れます。
文章の中に大好きな一節があります。
赤シャツは、しきりに眺望していい景色だと云ってる。野だは絶景でげすと云ってる。絶景だか何だか知らないが、いい心持には相違ない。ひろびろとした海の上で、潮風に吹かれるのは薬だと思った。いやに腹が減る。
ここです。無理やり釣りに連れていかれた主人公が、まわりなど関係ないとばかりに、ありのままに自分の気持ちをのびのびと表現するところです。文章も美しい。
「坊ちゃん」はこの後、愉快痛快に物語は進んでいき、スッキリと終わります。
漱石の作品にはすべて共通するところですが、それぞれメッセージが込められています。これを感じることができるのも、漱石の作品の魅力です。
作品は長編が多いですが、どれでも一つ読み切ってしまえばその魅力に取りつかれてしまい、何度読んでも飽きないと思います。
「坊ちゃん」ですが、物語は長く波乱万丈に感じますが、主人公の「おれ」が教師として生活したのは、わずか一か月のことでした。面白いですね。
TOZO 永井敏